辻村深月『傲慢と善良』

きつーい。「傲慢」と「善良」の交互爆撃がきつい。どんどん逃げ道が閉ざされていく感じである。辻村節の極致である。

いやいやそうは言ってもね、と口を挟みたくなるのを、次の行でもう「はい、もうおっしゃる通りであります」と平伏するしかない。第一部のスピード感、説得力。いやそれでも、と先に読ませる力がある。

火車』に似た暗い切迫感があった。

いやそれにしても、恋愛どころか人付き合いが苦手な自分のような人種には、突き刺さってしかたがない箇所が多い。そういう区別ではなくて、「いい子」の呪縛にある人間だろうか。「自分がない」人間だろうか。

皆が行くから大学に行き、親が決めたら就職し、そういうものだからと婚活する。
そこに自分の意志や希望はないのに、好みやプライドと――小さな世界の自己愛があるから、自由になれない。いつまでも苦しい。
しかし、この世の中に、「自分の意思」がある人間が果たしてどれだけいるだろう。

第二部は辻村ワールドと言ってもよいのではないか。第一部があまりにも鮮やかすぎたから、ちょっとスピードが落ちた感はある。ただ、「傲慢」にも「善良」にも救いが必要であるとしたら、こういう場所・時間が必要なんだろうなとも思う。

さすがの私でも、『青空に逃げる』の登場人物たちが再度出てきているのは分かりました。