伊坂幸太郎『重力ピエロ』

読み終わった本の記録。

読んだことあると思いこんでいた。読み終わった今も、あらすじを知っているような知らないようなフシギな感覚が抜けない。

春が二階から落ちてきた。

このあまりにも強烈で有名な書き出しを、どこかで目に耳にしていたせいかもしれない。

暗い影が物語をひっぱり、明るくウィットに富んだ会話がステップする。伊坂幸太郎作品の極地のひとつだと思う。

刊行は2003年。これより後のむしろ近年の作品の方から読んでいる私にとって、本作はよく研がれたナイフのようです。どこをとっても斬れ味が鋭い。社会に対して。罪に対して。文学に対して。エンターテイメントに対して。

エンターテイメント物としても、キャラクター物としても読めると思う。読者がどういう立ち位置にいるかによってガラリと変わるし、そのどの面をとっても一級で面白いと思う。

私は最近とても鬱屈としているので、正義と社会と喜びと優しさと、ひどくまぜこぜになった感情を抱いてしまった。

後の作品にも出てくる「黒澤」が格好いいのもいい。


この時代において、言文一致の「かっこよさ」さえ感じてしまった。こんな風に会話はしない。できない。こんな男らしく、洒脱な会話が現実にあってたまりますか。だけどこれが、物語で読むのにはかっこいいのです。