辻村深月『闇祓』

読み終わった本の記録。初版2021年10月。

まず、面白くて一気に読みました。リモートワークの環境すばらしい。読みやすい構成のおかげもあったけど、2時間半くらいで読めたのではないでしょうか。

そのうえで。こんなにねぇ… こんなにも書いていいんですか?! 果たしてこんな、悪意やそれ以前の感情や言動をね。「私をこれ以上暴かないでくれ」と思ってしまいましたよ。

折り返しや特設サイトに紹介もあるから良いでしょう。「闇ハラスメント」というワードが着想で、おそらくそのアイデアが強力に幹になって書かれていることでしょう。

事象や感情そのものは、歴史や恋愛やサスペンスとかいろんなテーマで、古今東西書かれてきたんだと思う。しかしこの、得体の知れない感情や行動に、「闇」という名前をとりあえず与えたのは、エポックメイキングではないでしょうか。

「闇」はいつのまにか侵襲する。これが悪い結果を生むだけならまだ良いんだけど、他者の闇を引きずり出す過程に妙がある。

第二章「隣人」は奥様同士の、第三章「同僚」は会社を舞台にしたもの。第一章のフックが効いていて、ミステリとして読み進めて面白いのだが、その過程でそれぞれ「あっ… わかる…… うん、あるそれ。やってる。やられてる」と、打ちのめされました。あまり使いたくないけれど、とにかく解像度が高いのです。辻村深月作品の、真骨頂がある。

彼女の、悪意やそれに近いものをじっと見つめて、それを文章として出す能力というか、それをやめない姿勢に感嘆します。心の裡なんてものは他人のそれは見えないし教えてもらえるものではない。だからそれこそ他者の作った作品から摂取するか、自分の奥深くを見つめるしか無いと思うんです。前者だけならそれは再構成・再生産に過ぎないわけだから、後者のつまり、自分の内面にあるものとの戦いが苛烈を極めているな…と毎回思っています。


正直、うちの親がこういう感じなんですよね。言行や不機嫌で人を支配しコントロールしようとしてくるタイプ。それに支配されていたことに気付くまでずいぶん時間がかかりました。そしてそれに気付いた後にも、そういう環境で自分が育ってきたものだから、今度は自分が他者に対してこういう圧力でもって動かそうとする傾向があると思っている。いつも怯えている。

〈竹〉に当たるものが、私にも欲しいよ。