凪良ゆう『流浪の月』

読み終わった本の記録。

解説や書評を読んでしまうと、自分では何も書けなくなってしまう。そしてこの作品について言えば、何かのキーワードを拾うと、興を削いでしまう。

一人の人間の中にある多面性を、本当によく描いていると思う。ほぼ1日で(就業時間中に集中して)読んでしまった。言葉が本当にきれい。

職場に社会に見せる態度、恋人に見せる顔、心許せる人に口から出てしまう言葉。それぞれが違うもの。当たり前だけど自覚は難しいし、物語に組み込むのはきっともっと難しいように思える。

けれどわたしは、自分がなにに幸せを感じるのかよくわからない。様々に降りかかる嫌なことから心を守っている間に、わたしは自分の輪郭をどんどんぼやけさせてしまった。自分がなにに傷つき、なにに歓び、なにに悲しみ、なにに怒るのか。

素直に言えば、冒頭からの描写がきつかった重かった。普通でないことに救いを見出し、しかし普通に逃げ込む。逃げ込んだ先ではしかし別の歪みがある。

似ているのにちがう。違うのに似ている。

ひどく素直な告白だった。一人のほうがずっと楽に生きられる。それでも、やっぱりひとりは怖い。神さまはどうしてわたしたちをこんなふうに作ったんだろう。

善意や優しさが暴力になりうる。被害者は容易に加害者になる。

ちがう。そうじゃない。わたしは、あなたたちから自由になりたい。中途半端な理解と優しさで、わたしをがんじがらめにする、あなたたちから自由になりたいのだ。

視点が変われば見え方が変わる。時間が経てば立っている場所や在りようも変わる。でも変わらないものもある。「流浪の」という言葉に込められているのかな。