小川一水『天冥の標』読了

《天冥の標》合本版

《天冥の標》合本版

Amazonの履歴によると2020年5月30日にKindle版を購入していた。実に半年をかけたことになる。文庫にして17冊分になるそうなので、さもありなん。これ2回、3回読もうとしたら、人生の娯楽がほとんどこれに終わってしまうかしら。

COVID-19が世を席巻する中で、〈冥王班〉に始まるこの物語に触れられてよかったと思う。いっそこの現実も、壮大な物語の始まりであったら良いのに。

10巻「青葉よ、豊かなれ」を読み終わると、1巻「メニー・メニー・シープ」の時点でこの終結を想定していたことがもう驚異的である。4巻ではセックス、5巻では農業とまったく違うテーマや舞台で語られた言葉たちが、少しずつ明かされ、つながっていく様は見事としか言うことがない。

6巻「宿怨」のPART3の第五章に、「天冥の標」という副題がある。この6巻から、7巻「新世界ハーブC」、8巻「ジャイアント・アーク」に至ると、そうだったのか!どうなるんだ!と気持ちが逸る。

9巻「ヒトであるヒトとないヒトと」、最終10巻「青葉よ、豊かなれ」のいよいよ終盤では、『世界』の秘密が明かされ、その世界はさらなる脅威に晒されていることが明らかになる。最後の段階になっても、アカネカやオンネキッツとか魅力的なキャラクターが出てくるものだから、終わるのが寂しかった。(このあたり、カルミアン概念の日本語化がかっこよくてめちゃくちゃSFしている)

壮大な闘いや絶望を描きながら、全編を通じて、隣の誰かへの慈しみが主題として貫かれていたように思う。それがきっといつか、大きな力になるんだろう。