小林泰三『未来からの脱出』

読み終わった本の記録。

小林泰三さんってこんなに読みやすい文章を書いてくださる方でしたか。『玩具修理者』のおどろおどろしい雰囲気の印象がかってにあって、長いこと読めずにいた。とんでもない。素晴らしく、日本SF小説として最高峰じゃん…ってなった。

たまたま手に取った本書は、お亡くなりになる直前、だいぶ近著のものの様子。中盤から明かされる舞台装置は、いまの我々にも馴染み深い名詞と現象と予測に満ちています。

曖昧模糊とした「記憶」と、それに抗う構図というのは、宮部みゆき『レベル7』や最近だと『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を想起する。個人的にはジジョ6部の〈ジェイル・ハウス・ロック〉が一番近い。

疑心暗鬼とサプライズの織り方がきれい。読者を楽しませたいという圧力があって、それに身を任せるのが気持ちがいい。

最後の場面の、視点と文章は読み解くのが難しい。解釈を広げるタイプの記述でしょうか。