吉田修一『続 横道世之介』

読み終わった本の記録。

文庫版では『おかえり横道世之介』と改題されているそうです。気をつけましょう。

さりげない一節が、なんとなく自分に降り積もっていくような、優しい作品だと思う。

ただ、ダメな時期はダメなりに、それでも人生は続いてくし、もしかすると、ダメな時期があったからこそ、出会える人たちというものもいるのかもしれない。
桜子や亮太はもちろん、隼人さんに、親父さん、浜ちゃんだって、コモロンだって、もし世之介が順風満帆な人生を送っていたら、素通りしていったかもしれない。

浜ちゃんとは、コモロンとはどうなるのってなんとなくソワソワしながら読むも、世之介が少し与えた影響とその先にある描写に、おおーそうなるかそうくるかと、吃驚したり安堵したりする。

亮太と隼人さんに軸が移っていくととても、まるでそこに人がいるんじゃないかというくらいの質感を感じる。匂いとか音とか。なんだか暖かい気持ちになるパートが多かったように思えます。

「小市民」たる世之介は、〈善良〉であろうとしているわけではないと思うのです。弱いし悩むこともあるし踏ん張りはきかないし。だからこそ読んでいて共感できる。完璧超人では読者の私はどうしたらいいのか分からなくなってしまう。

それでもズルくはない。全力でまっすぐである。その姿が結果〈善良〉なんだろうと思います。

世の中がどんなに理不尽でも、自分がどんなに悔しい思いをしても、やっぱり善良であることを諦めちゃいけない。そう強く思うんです。