宮部みゆき『青瓜不動 三島屋変調百物語九之続』

収録作品:「青瓜不動」「だんだん人形」「自在の筆」「針雨の里」

「青瓜不動」タイトルでもう勝っている。行然坊の再登場に歓喜があり、お勝のしなやかさに憧れる。おちかの出産に際してイレギュラーに持ち込まれる物語。女たちに必要とされる居場所とその成り立ちは、いっそ現代の写し鏡である。風刺であり、地続きの問題提起でしょう。うりんぼ様が愛らしく、また厳しく頼もしい。

「だんだん人形」ラストシーンで美しさに泣いた。1月1日の夜に読み終わりました。富次郎と年の近い語り手とのやりとりが瑞々しくて楽しい。昔からの友達のよう。激動の世の社会のままならさと、人の思いの強さ。思いの込められたものとそれを大事にすることの意味。自分がその箱を受け継ぎ開けるときのような質感。「大事にする」ということがいいなぁと思う。

「自在の筆」分かりやすいタイトルを、まさかの搦め手(メタ)で回収していく。百物語としてはイレギュラーで、しかし著者の描きたい富次郎の姿のため、必要なエピソード。

「針雨の里」アイデア勝ちである。針の雨が降るってどんなおどろおどろしい救われなさかと身構えていたが、「悪い人」がまぁ出てこない。これまでにない慟哭のあるラストが良い。読後感が良い。それぞれのパーツが全部噛み合っていたかというと微妙な部分があるかもしれないが、本作は謎解きとして読む楽しさがある。


2025年初旬時点での最新刊までの計9巻を読み終わった。

聞き手が富次郎に変わってから、明らかに著者が書くのが楽しそうに感じる。「食べ物」や「絵を描きたい」という本人の欲求に物語を引っ張る力がある。三島屋の商売やおちかやお勝との関わりもしかり。

次の巻を読めるのはだいぶ先かもしれないが、次の出会いを楽しみに待ちたい。