三浦しをん『エレジーは流れない』

読み終わった本の記録。

迷惑のかけあいが、だれかを生かし、幸せにすることだってありえる。少なくとも、だれにも迷惑をかけまいと一人で踏ん張るよりは、ずっと気が楽なのではないかと怜には感じられた。

寂れたというには賑やかな、しかし栄えているとは言えない商店街「餅湯商店街」を舞台に、高校生男子主人公をとりまく友人、家族とその間にある自分のお話。

冷静に考えたら、ドラマチックすぎる境遇に身を置いていると思うんです。しかし実際にその場にいる者にとっては、それが自然なこととして受け入れられていくのかな。ドラマの主軸をそこに持っていかないのは、とても「現代的」な描写だなと感じた。

現状に過不足は無いし、ある程度の優等生だし、しかし何かやりたいことや飛び抜けたことがあるわけではないし…という、すごくきっと「ありふれた」像の描き方が自然だったなと思う。つい周りに合わせてしまうし、それに鬱屈もあるけれど、波風は立てたくないという気持ちは、とても私の近しいところにある。

派手な事件が起きるわけではない。穏やかで優しく、でもちょっとだけ時間と環境によって何かが変わっていく。そんな作品でした。