津原泰水『バレエ・メカニック』

バレエ・メカニック (ハヤカワ文庫JA)

バレエ・メカニック (ハヤカワ文庫JA)

読み終わった本の記録。

いやこれは「読めた」と言えるんだろうか。一般教養とSF的教養がものすごく試される気がする。

幻想的な世界の描写と現実の不確かさが、言葉でこんなにも描けるんだという「第一章 バレエ・メカニック」木根原魁。

視点が変わって龍神好美から謎に迫る「第二章 貝殻と僧侶」謎解きとSFと幻想小説の混じったような。固有名詞が出てくると安心さえする。

数年後の〈現実〉を描く「第三章 午前の幽霊」ここに至ってカタルシスを渇望せずにはいられない。それなのに提示される風景にはそれまで以上の不確かさがある。

難解だし、奇想天外だし、一読して「読めた」とはとてもじゃないが言えない。万が一「国語のテスト」に出されるものなら投げ出す勢いである。しかし言葉の圧倒的なきれいさのなせるわざで「読まされてしまう」と言ったほうが近い気がする。私の稚拙な語彙では理解が追いついているはずがないのに、なぜか先が気になってしかたがなくなる。物語や小説や文章は、かくも自由で、ひとを揺さぶることができる。

中山七里『秋山善吉工務店』

秋山善吉工務店 (光文社文庫)

秋山善吉工務店 (光文社文庫)

読み終わった本の記録。

同作家の著作をいくつか読んできたなかで、本作は特におもしろく感じた。書名の分かりやすさもあって、記憶に残る。

語り口は軽く、連作短編のひとつずつが小気味いい。それなのに底に低い音が鳴っていて、最後にうまくつながる。

吉田修一『ウォーターゲーム』

ウォーターゲーム (幻冬舎単行本)

ウォーターゲーム (幻冬舎単行本)

読み終わった本の記録。

私が地理と世界情勢に明るくないというのが多分にあると思うのですが、もうひとつ入りきれず…。

水戦争という題材(ネタ)が強すぎるといいますか。周辺にある群像劇がハリウッドアクション映画のそれのように目まぐるしく(その意味でテンポはいいのですが)各キャラクターの造形を追うのでいっぱいいっぱいになってしまった。導入に出てくる「若宮真司」なんかはある意味キャラクターが立ってると思ったし、「石崎」なんかは裏の裏の裏くらい見せてくれるのかとも思った。中盤以降にそれぞれキャラクターがいっそ“消失”してしまっているようにも見えた。