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三浦しをん『天国旅行』

天国旅行

天国旅行

本書は、「心中」を共通のテーマにした短編集である

本を読みながら波長が合うときってあると思うんですけれど、僕にとって三浦しをんさんの書く文章はすごく心地がよくて、すぐに物語の海に連れて行ってくれるような感じがする。別に特別なことは感じないのに、すっと入ってくるような感じがする。

どうして「心中」がテーマだったのか、どうしてそれをテーマに選んだのかひどく気になる。連作短編のそれぞれ小説新潮が初出なので、新潮社の選定か作者の選定なんでしょうね。

「心中」をテーマにするとき、それってもう必然「生」と「死」とそれに「愛情」の物語になりますよね。重いです。各編に爽やかさだったり強さだったり怖さだったり優しさだったり、きっとサブテーマがあるんじゃないかとも感じました。

『森の奥』の“青木くん”はきっと性根がすごくいい人。『遺言』はユーモラスなのにかっこよかった。。『君は夜』と『炎』の情念みたいな描写は素晴らしかった。

とくに『君は夜』は不思議な作品で、傑作だと思った。ありがちと言えばありがちな「前世」設定なのに、いつのまにか火のつく愛情を淡々と描きながら、それを追いかけてくる暗い気配みたいなものを確実に感じ取れる。たぶん構造的にも、読者しか知り得ない情報を緻密に使っていて、短編の短さで「なぜか」あっと驚くような結末を見せてくれます。