三浦しをん『天国旅行』

天国旅行

天国旅行

本書は、「心中」を共通のテーマにした短編集である

本を読みながら波長が合うときってあると思うんですけれど、僕にとって三浦しをんさんの書く文章はすごく心地がよくて、すぐに物語の海に連れて行ってくれるような感じがする。別に特別なことは感じないのに、すっと入ってくるような感じがする。

どうして「心中」がテーマだったのか、どうしてそれをテーマに選んだのかひどく気になる。連作短編のそれぞれ小説新潮が初出なので、新潮社の選定か作者の選定なんでしょうね。

「心中」をテーマにするとき、それってもう必然「生」と「死」とそれに「愛情」の物語になりますよね。重いです。各編に爽やかさだったり強さだったり怖さだったり優しさだったり、きっとサブテーマがあるんじゃないかとも感じました。

『森の奥』の“青木くん”はきっと性根がすごくいい人。『遺言』はユーモラスなのにかっこよかった。。『君は夜』と『炎』の情念みたいな描写は素晴らしかった。

とくに『君は夜』は不思議な作品で、傑作だと思った。ありがちと言えばありがちな「前世」設定なのに、いつのまにか火のつく愛情を淡々と描きながら、それを追いかけてくる暗い気配みたいなものを確実に感じ取れる。たぶん構造的にも、読者しか知り得ない情報を緻密に使っていて、短編の短さで「なぜか」あっと驚くような結末を見せてくれます。

森絵都『風に舞いあがるビニールシート』

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

これ以上悪化する見込みのない「最悪」がもたらす、ほのかな安らぎというものがある。もはや相手になにも望まなくていい。相手からなにかを望まれることもない。

油断していた。「森絵都」という名前にすっかり騙された。こんなにも広く深い作品に会うとは思わなくて、面食らってしまった。

簡単には解消できない思いがある。どんな人にもある。舞台や場所や時代が変わっても、それはあり続ける。そんな人たちに目を向けて、優しく寄り添い、それでも現実の難しさの前に、都合のいい結末では救わない。

短編の一編それぞれが別の顔を見せながら、同じ温度と重さで迎えてくれるような作品だった。

表題作の『風に舞いあがるビニールシート』のほか、『守護神』がよかった。ある種叙述トリックのような趣をみせながら、爽やかな結末が好きでした。