宮尾登美子『鬼龍院花子の生涯』

読み終わった本の記録。ずっと前にKindleのセールで買っていたものの、紙面の圧力のためにずっと積ん読だった。

時代が変われば書き方も変わる。そういえばその昔授業で扱われた小説にはこういった文章が多かったように思った。著者の視点が一歩引いていて、主人公ほか登場人物に同化まではしないというような感じ。ふだん読むような当代の小説は、より没入させようとする仕掛けが発達しているような気がする。

そして地の文が長い。段も長ければ章も長い。すぐに「いま居る場所」「着地する場所」を期待し探してしまう私のような人間にとっては、慣れや訓練が必要でしたね。

しかし慣れてしまえばこれが面白い。文章がきれい。こんな表現ができるんだ、という発見。

鬼龍院の家の始まりと勃興そして没落が、松恵と花子の、近くて遠い距離を行ったり来たりしながら紡がれます。「歴史」の授業では語られにくい戦前・戦後の風景や考え方を感じられるのも、文学の得難い役割だと思った。