森絵都『風に舞いあがるビニールシート』

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

これ以上悪化する見込みのない「最悪」がもたらす、ほのかな安らぎというものがある。もはや相手になにも望まなくていい。相手からなにかを望まれることもない。

油断していた。「森絵都」という名前にすっかり騙された。こんなにも広く深い作品に会うとは思わなくて、面食らってしまった。

簡単には解消できない思いがある。どんな人にもある。舞台や場所や時代が変わっても、それはあり続ける。そんな人たちに目を向けて、優しく寄り添い、それでも現実の難しさの前に、都合のいい結末では救わない。

短編の一編それぞれが別の顔を見せながら、同じ温度と重さで迎えてくれるような作品だった。

表題作の『風に舞いあがるビニールシート』のほか、『守護神』がよかった。ある種叙述トリックのような趣をみせながら、爽やかな結末が好きでした。