『聖母の深き淵』『月神の浅き夢』

聖母の深き淵 角川文庫

聖母の深き淵 角川文庫

月神(ダイアナ)の浅き夢 (角川文庫)

月神(ダイアナ)の浅き夢 (角川文庫)

柴田よしき『RIKO』シリーズ。2作目は聖母と書いてマドンナ、3作目は月神と書いてダイアナ。一気に読了してしまいました。

『聖母~』は、一児の母となった緑子とタイトルの通り女と母の事件。1作目の緑子のデビューの鮮烈さと、3作目の強烈さに比べてしまうと、すこし勢いで落ちるかもしれない。ただ、筋書きの緻密さと、山内錬と麻生龍太郎という魅力的なキャラクターが登場する記念すべき作品のように思う。

相棒は小野寺刑事。舞台は辰巳から東京。

『月神~』は、仕事に対する家庭と向き合い始めた緑子と、“月”の話。

これはもう、衝撃的な幕開けから怒涛のように闇の中を走らされるような筆致で、ノックアウトされましたね。若いハンサムな独身の男性刑事が惨殺されるって、もうそれだけ書いたらなんじゃそりゃってなると思うんですよ普通。それが一筋縄ではいかない。

相棒は坂上刑事。舞台は東京を飛び出すことも。

物語そのものが入り組んだ構造を用意されているのに、その周辺にいる宮島や麻生、山内たちを抉るように書ききったのには、執念みたいなものを感じます。

1作目から連続して読んでしまうと、どうしても筆者の癖が読めてしまうので半分くらいで「あれがそうでこれがあれかな?」という想像はついてしまうんですけれど、その辺からそれがどうでもよくなるんですよね。山内出てこないかなー。麻生さん出てこないかなーって。個人的には高須刑事が1作目からわりと不憫すぎるだろうと思うフシもあるんですが、彼は正統派主人公として薄幸の美青年でいてもらうのがいいんだろうと思います。

で、これを書きながら、あぁ…RIKOもとりあえず終わりなのかな、残念だな、なんて調べたんですけどね。まぁそれは嘘ですよね。検索窓には「山内 麻生」って打ち込んでましたよね。

びっくりしましたよ、スピンオフが後で書かれているではないですか。ということでそれ(ら)は間違いなくなんとかして手に入れて読むことにするのですが。

そうなんですよ、やっぱり途中から感じてはいましたよ。『聖母~』で登場した山内というキャラクターは、たぶん最初ちょっと癖のあるヤクザの一人として出すだけのつもりだったんじゃないかと思うんです。それが一人で歩き出し、それが麻生という存在を得て二人で歩き始めた。もうこれは多分に推測ですが、間違ってはいないんじゃないかと思う。『RIKO』の最後で緑子をある意味で救えなかった代わりに、山内と麻生に託したかったんじゃないかとさえ感じています。

小説ってすごいなって、改めて思わされた1周間でした。本当におもしろかった。そしてこの楽しみがまだ確かに残っているということに、幸せを感じつつ。