いい男

ああ、いい男だな。

そう感じた瞬間があった。恋愛感情とか劣情とかそういうものが少しもないかと言われればそう言い切れないけれど、そういうものとは別に「いい男」としか言えないような、そんな環境と、そんな人。

仕事ができる、優しい、気が払える、気のいい、弱きを助け強きを挫く、そんな八面体みたいに形容すればいいのかな。そういうものをひっくるめて「いい男」と形容するのがちょうどいいと思った。

もともと、わたしは彼が苦手だった。言葉が乱暴なところに気遅れしたり、頭の回転が早すぎて嫉妬したり、まぁ今思えばわたしはずいぶん器の小さい人間だわ、と思いますけれど、とにかくそうだった。もう少し若いころには飲みに誘ってもらうこともあったけど、そのときどきで「嫌です」とか言ってたら、どうも彼はそれが気に入ったらしい。なんだかんだ目をかけてもらうようになった。

ふとしたことで頼らざるを得なくなり、ここが話の要なんだろうとは思うけど割愛させていただくと、その時から見る目が変わっていた。なんというか、打算なく本気になってくれたことが嬉しかったように思う。

わたしは臆病で打算的な自信家で、心の芯のところで「わたしは賢い」と思っている態度の悪い人間なのだけれど、どうも彼にはこの先ずっと敵う気がしない。ただ「ああいうカッコイイ大人」像を見せてくれたことに感謝している。目標といえばカタイ。憧れだとトオイ。そんな距離。


どうも最近、その彼から過大評価されているのか(あるいは同情なのか憐憫なのか、ホントのところは分かりませんけれど)声をかけられることがあって、思い返した。過大評価をストレスに感じるより、いい男に寄り添えることに重きを置こうじゃありませんか。

というか、わたしの弱いところをよく知られているのだから、いまさら。ねえ。

こういうことが書けるようになったぶん、わたしは素直になったなと思う。いまは生きやすい。